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どちらのイデオロギーの場合も、その科学的基盤は、まだ科学が究極の真実を伝えてくれると期待されていた一九世紀に確立された。 われわれはそれ以後、科学的方法の限界についても、市場メカニズムの不備についても、多くを学んできた。

マルクス主義もレッセフェールも完全に否定された。 まずレッセフェールが、大恐慌とケインズ経済学の登場によって退けられた。
マルクス主義は、スターリン支配の行き過ぎにもかかわらず生き延びていたが、ソビエト体制の崩壊の後、今ではほぼ完全に失墜している。 私がまだ学生だった一九五○年代の初めには、レッセフェールは、今日の経済への国家介入よりもつと受け入れがたいものとされていた。
それが復活することなどとうてい考えられなかった。 市場原理主義の復活は、科学的基盤をもしのぐ偉大な魔法(「見えざる手」)に対する信仰によるものとしか、解釈のしょうがない。
レーガン大統領はいたずらに「市場のマジック(魔法)」と言ったわけではなかったのだ。 原理主義者の信仰の大きな特徴は、二者択一の判断に依拠することだ。
ある命題が間違っているとすれば、その反対が正しいと主張する。 この論理的矛盾が、市場原理主義の中核をなしている。
経済への国家介入はすべてマイナスの結果を生んできた。 中央計画経済はいうにおよばず、福祉国家も、ケインズ経済学の需要管理もそうだった。
この平凡な観察から、市場原理主義者はまったく非論理的な結論へと飛躍する。 国家介入が間違っているなら、では自由市場こそ完全であるにちがいない。
したがって、国家による経済への介入を許してはならない、というのである。 この論理が間違っていることは、あらためて指摘するまでもないだろう。
公正にいうと、規制のない市場を支持する主張が、このように荒削りな形で提示されることはほとんどない。 むしろその逆で、ミルトン・フリードマンのような人たちは膨大な統計データを提示し、合理的期待論者は難解な数学を駆使してきた。

なかには、情報の不完全性や非対称性をモデルに組み込んでいる人もいるそうだが、彼らがこうした曲芸をするのは、一般に、完全状態、すなわち均衡を確立するためだ。 ピンの頭で何人の天使が踊れるかをめぐって延々と続けられた中世の神学論争を思い出させる。
市場原理主義は、グローバル資本主義システムのなかで決定的に重要な役割を果たしている。 最も成功している参加者の多くをつき動かすばかりか、政策まで左右するイデオロギーを提供している。
それを抜きにしては、資本主義システムについて語ることはできないだろう。 市場原理主義は、ロナルド・レーガンとマーガレット・サッチャーがほぼ時を同じくして政権に就いた一九八○年ごろ、政策を支配するようになった。
広くいきわたっているトレンド歩員本をめぐる国際競争は、それ以前から、すなわち一九七○年代の二度の石油危機とーロカレンシーのオフショア市場の誕生とともに始まっていた。 バイアスとトレンドは以来、互いに強化しあってきたが、それはいくつもの面が分かちがたく絡まりあった多面的な過程だ。
株式公開会社はその数も規模も拡大しており、株主の利益はますます重視されるようになっている。 経営者は、株式市場に対しても、製品市場に対するのと同様、大きな関心を寄せている。

どちらか一方を選ばなければならないとしたら、金融市場からのシグナルが製品市場からのそれに優先される。 経営者は、株主資本の価値がそれで高まるなら、ためらうことなく部門を整理したり、会社全体を売却したりするだろう。
彼らはマーケット・シェアではなく利益の最大化をめざす。 ますます統合が進んでいるグローバル市場では、買収するか、されるか、ふたつにひとつなのだ。
どちらにしても、自社の株価は高くなければいけない。 経営者の報酬もますます株価に連動するようになっている。
こうした変化は、急速に統合が進んでいる銀行部門で特に顕著だ。 銀行株は一株当たり純資産額の数倍で取り引きされているが、経営者は自分のストック・オプションを念頭に買い戻しを続け、発行済み株式数を減らして市場価値を高めようとしている。
地球規模で産業の統合が進むなかで、合併・買収活動はかつてないほど活発化し、国境を超えた取引はますます当り前になっている。 欧州単一通貨の成立は、欧州全域での統合に大きなはずみをつけ、こうした企業再編が予想もできなかったペースで進んでいる。
地球規模の独占や寡占も登場するようになっている。 今では大手の監査法人は世界に四社しか残っていない。
これほど顕著ではないにしても、他の金融分野でも同様の集中が進んでいる。 マイクロソフトとインテルは、今にも世界規模の独占を完成しそうな勢いだ。
同時に、株主の数が増加しており、家計資産における株式保有の相対的重要度が加速度的に高ムテまっている。 背景には株価の持続的かつ急速な上昇がある。

一九九八年八月までをみると、一九八調○年代初めにスタートした強気相場が大きく中断したのは一九八七年が最後で、それ以後、S&P株価指数は一五○パーセント余り上昇している。 ドイツで順は、一九九二年九月以降、株価は一九七パーセント上昇している。
実体経済の成長はもっと控え目酷ではあるが、成長は持続している。 収益性重視が従業員数の削減と従業員一人あたりの生産高向上グにつながり、一方で、急速な技術進歩も生産性を向上させている。
グローバリゼーションと、より億安価な労働資源の利用によって生産コストが抑制され、金利は一九八○年代初めから低下基調で推移して、株価の上昇に寄与してきた。 とりわけアメリカでは、ミューチュアル・ファンド(投資信託)を通じた株式保有の拡大から、安定を脅かすふたつの要因が生まれている。
ひとつはいわゆる資産効果である。 家計資産の三八パーセント、年金基金の五六パーセントが、株式に投資されている。
株式保有者は大きな含み益を得て金持ちになったように感じ、貯蓄性向は、図6ーに明らかなように、消滅寸前にまで低下している。 このグラフは、家計の可処分所得に占める個人貯蓄の割合が、一九七五年の一三パーセントというピークから○・一パーセントに落ち込んでいることを示している。
株価が持続的な下落をみせるようなことがあれば、株主の心理は逆転して、景気後退を導き、相場の下落をさらに加速させるだろう。 安定を脅かすもうひとつの要因は、ミューチュアル・ファンドにある。
ファンド・マネジャーは、絶対的運用成績ではなく、他のファンド・マネジャーと比較した相対的運用成績によって評価される。 不可解に聞こえるかもしれないが、これは重要な意味を持つ。
このために、ファンド・マネジャーは、事実上、トレンドに追随せざるをえないからだ。 大勢に従っているかぎり、投資家が損をしても、ファンド・マネジャーにはなんら害はおよばない。
しかし、トレンドに逆らって運用成績が一時的にせよ他のファンド・マネジャーより劣ったら、職を失うかもしれないのだ(フィデリティーの最大のファンドを任されていたJ・ビークは、まさにこの憂き目にあった。 彼は以後、独立して高い運用成績をあげており、絶対的運用成績をベースに運用報酬を稼いでいる)。

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